アートユニット クレモモ CLEMOMO|Clem Chen(クレム・チェン)/ 根岸 桃子 (ねぎし ももこ)

  • 2025年3月25日
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カナダ出身のクレム・チェンさんと群馬県みどり市出身の根岸桃子さんによるアートユニット・クレモモの作品は、独創的でありながら、一貫して彼らの作品とわかるユニークさを併せ持つ。中之条ビエンナーレ2023では旧肉屋入口に裸婦と虎の大きな絵を掲げ、中に入ると自由奔放な色と形が壁を埋め尽くし、人工知能を使った映像がポップかつやや不気味に流れるインスタレーションを展開した。先述した「湯の宿 山ばと」のクレモモアーティストルームでは、赤いとんがり頭で独特の色とフォルムを持った人間大の2体のオブジェを制作。生き物のようなそれと一緒に泊まれる部屋を作った。
町には廃校を利用したイサマムラという施設がある。中に中之条ビエンナーレの事務局を構えるほか、空き教室を作家のアトリエとして貸し出している。その一室、試作中の作品で溢れるクレモモのアトリエを訪ねた。
「中之条ビエンナーレに初めて参加した2019年は個々の名前で出ていたんですが、事務局の人にクレモモって呼ばれて良いじゃんてなって、2人でクレモモでいいかって。長期滞在をしたんですがレジデンス(アーティストの共同宿舎)を出てアパートを借りて、空き家を借りて。その後すぐにここのアトリエの一室が空いたと聞いて使わせてもらって。長く定住するとも決めていなかった」と桃子さん。他の芸術祭への出展や、町内店舗のロゴ制作、県内企業への作品提供もしながら、この町で暮らしてきた。クレムさんに中之条町の印象を聞くと「めっちゃピースフル」との回答。
クレモモはオリジナルグッズを制作し、それらは中之条町ふるさと交流センターつむじ等で購入ができる。人気の陶器の耳飾りは、作品制作のために不要な陶器を集めた際の欠片(かけら)を再利用したもの。角を削る際、釉薬で塗られた柄はそのまま残る。あえて左右を非対称に作ることによって、同じものがふたつとない。顔型のブローチに使われている粘土は中之条町産で、六合の陶芸家・中山譲さんを紹介してもらい、彼のお勧めの粘土採取場から掘り出したもの。今使っている粘土は町内の庭園「中之条ガーデンズ」の植樹の際に出てきた粘土層の土。中之条ビエンナーレの出展作品では「同形の顔型の粘土をお客さんが壊す」という趣向があったため、何の意味があったのかを2人に尋ねたところ、「イメージは土偶だったね」(桃子)、「日本で土偶が作られた本当の意味はわからないけど、それらは儀式に使われ、意図的に壊されました」(クレム)掛け合いの様な返答から、2人で制作していることが良くわかる。
アーティスト活動を行う以前、クレムさんは自らデザイン会社を作り、その後はバンクーバーのスタジオで10年ほど映画美術の仕事をしていた。一方の桃子さんは美容学校を経て美容師を6年ほど続け、芸術祭やレジデンスのスタッフをしながら自分の作品を作るようになっていた。そんな2人の接点は旅。クレムさんが日本を旅している時、仕事をやめ旅をしていた桃子さんと出会った。2人で最初に行ったのは沖縄。一緒に絵を描いた。クレムさんが「バナナの形は面白い。真っ黒に塗ってみたい。」という話をして、ちょっと席を外して戻ってきたら、桃子さんがすでにバナナを黒く塗っていた。それが最初のコラボレーション。カナダでは共に沢山の石を拾い色を塗った。北海道、タイ、ミャンマー、インドと旅は続き、2人で本格的に作品を作り始めたのは中之条町に来てから。
作品制作では、何度も何度も対話を繰り返す。クレムさんはアイデアを次々と提案し、きちっとした仕事が得意。桃子さんはきちっとした仕事は苦手だが、全体のバランスをとるのが得意。一つのデザインを作るため何十ものスケッチを描くことは普通で、クレムさんがデザインをして根岸さんが色を塗ることもある。「日本での生活はずっとレジデンスをしている感じ。制作モードに入ると空腹も睡眠も邪魔。バランスが取れない。自分ひとりで作るだけでは結構無理」(クレム)、「仕事もプライベートも2人がベースなので、面白いこともいっぱいあるけど喧嘩にもなる。何か一つの軸を持ってやっているわけではないけど、振り返るとやっぱ2人の関係性がそのまま作品に出てるなって自分では思います」(桃子)
クレモモのチームワークは作品制作だけに留まらず、中之条ビエンナーレガイドブックなどの英日翻訳や英文チェックにも活かされている。中之条ビエンナーレ総合ディレクターの山重徹夫は「2人の翻訳はすごい。アーティスト目線でちゃんと翻訳されている。ネイティブの人が見て、これほど完璧に翻訳されたガイドブックはないと褒められた」と語る。国際芸術祭である中之条ビエンナーレには、韓国、中国、台湾、タイ、イタリア、イギリス、ポーランド、ドイツ、イスラエルなど様々な国からアーティストが参加するが、その国際化の下地も、移住アーティストによって支えられている。
「クレモモは純粋にアートを楽しんでいる。その姿勢に救われた」別の移住アーティストから聞いた言葉だ。彼らの創作から目が離せない。