土地の恵みをいただく生活
海の近くに暮らす人が海に入って魚や海藻を得るように、山に生活する人は山の恵みをいただいてきた。春には山菜、秋には木の実やキノコを採り、狩りをする人は動物の命をいただく。住まう土地によって周辺の自然との関係の持ち方は様々だ。
六合の土地は圧倒的に山だ。人々は山の合間に住居をつくり、農地を開墾して自分たちの生活をつくってきた。山と共に生きる暮らしを、長い時間をかけて育ててきた。この土地には“めんぱ”や“こねばち”など、木を利用した生活の工芸品が多く残っている。「使う」ことが目的である道具たちだ。木の恵みを活かし、自分たちが生きる。「生活」ってこういうことだと、六合に生きる人たちの姿に触れるたびに思わされる。
白から青へ、変化する煙の色
関さんに炭焼きの窯を見せてもらった。火入れをして2日目、もうもうと白い煙を吐いている。この煙の色が、変わるらしい。「窯の中の水蒸気がなくなってくると、煙が青くなるんだ。水分がある時は白い煙が出るけど、徐々に中が80度くらいになって、炭化してくるんだよ」。窯は火入れをすると中を見ることはできない。でも、関さんには窯の中の様子が見えているようだ。
「山に木材があったし、暇だから窯をつくって炭焼きをはじめてみた。この奥の山から切り出していきて、一回に400キロくらい焼く。それを年に5回やるので2トンは焼くかなぁ。110㎝の木が、焼くと90㎝くらいになる。重さは半分くらいになるかなぁ」。関さんのスタイルは、柔らかい。炭焼き場の敷地内には趣味のための建造物が二棟ある。これがめっぽうおしゃれで凝ったつくりなのだ。薪ストーブで暖をとり、仲間と趣味の時間を過ごす。極めて豊かな時間が、六合の山の中で流れている。
炭のある暮らし
「炭の需要はないよ。バーベキューの燃料としても使われなくなってきてしまった。東南アジアのマングローブが安い炭になって輸入されているしね」。確かにバーベキューをする時に、炭の来し方に思いを馳せたことはなかった。こんなに身近で炭がつくられているのにも関わらず、だ。実際に関さんの焼いた炭は、火持ちが良く火力が強いと評判だ。
「尻焼温泉の宿が炭のベッドをつくるというので沢山の量を供給した。これがぐっすり眠れると評判がいいんだ」。燃料としてではない炭の活用が広がっている。「ろ過する役割もしてくれるから、温泉宿でせっけんやシャンプーなんかに炭を使ってくれるといいなぁ」。この土地の温泉宿の売りは綺麗な川や周辺の自然環境だ。この土地でできたものがこの土地で活用され、環境を守っていければ嬉しい。関さんはこれからも炭を焼くだろう。山に入って木を伐って、焼く。炭のある暮らしを、炭のある土地のことをもっと知りたくなった。