ABC Labo|入澤 麻子(いりさわ あさこ)

  • 2024年3月18日
  • 10view

山に行きたいと思っても日々の生活は忙しい。そんな方は、エクササイズと共に気軽に山を楽しんでみてはどうだろうか。入澤麻子さんは、町内のスポーツジム「ABC Labo」でトレーナーを務める傍ら、ポールを使って歩行運動を行うノルディックウォーキングのインストラクターをしている。この日は、四万湖周辺を楽しむコース。中之条ダムそばの駐車場に車を停め、麻子さんが慣れた手つきでポールを取り出す。ノルディックウォーキング用のポールはスキーのストックに似ているが、用途が違う。ストックは体や体重を支える役割をするが、ポールは歩く際に上半身へ負荷を与えるために用いられる。参加者一同は中之条ダムの上を渡って川向うの広場へ。初春の柔らかな光を受け、四万川は翡翠色に輝いていた。

麻子さんが「私の準備体操は長いです。ケガの防止はもちろんですが、普段参加される方は年配の方が多く、関節が動かないとあまり運動の効果が得られないので」と前説をし、ポールを使ったストレッチ運動が始まった。両方のポールを足の両脇について体を固定し、片足ずつ前後にぶーらぶら。続いて両足の前にポールをついて、平泳ぎのように両腕と肩を大きく回す。これら準備体操だけでも十分な運動になっている。ウォーキングのやり方も案外シンプル。普段歩く際の手の振り方で10センチほど前に手を振るだけで、ポールの先が良い位置で地面につく。それが出来れば、ポールを押す腕や上半身に適度な負荷がかかる。普段のウォーキングは体の60%の筋肉を使うが、ポールを使えば90%の筋肉を使って歩くことができるというから驚きだ。歩くペースは決まっていない。大切なのは、マイペースに無理なく運動することなのだろう。

麻子さんのこれまでの道のりも、マイペースだったように見える。中之条町の隣町、東吾妻町の布団店の娘に生まれ、体を動かすことは好きだったが運動神経が格別良いわけではなかった。中学時代はソフトボール、高校ではバスケットボールに熱中。高校を出た後は、パン屋、コンビニ、ゴルフ場の受付、遺跡発掘まで様々な仕事を転々とした。23歳の頃、布団店を営む母が体を悪くして綿入れと呼ばれる肉体作業が出来なくなってしまった。家業を畳むのはもったいないと思い、手伝いに入った。その流れで、布団店の仕事が終わってからもできるバイトとして始めたのが、東吾妻町の健康増進センターの仕事だった。
健康増進センターにはランニングマシーンやウエイトトレーニングなどの機械が並び、利用者の受付や運動のサポートをした。人に教えることの楽しさ、教えた人がやれるようになることの嬉さに気付いたのもこの頃。やがて臨時職員となり、この職場でノルディックウォーキングのインストラクターの資格も得た。勤めて10年。適職であったが、町の意向によりこの職場は閉められる運びとなってしまった。

ノルディックウォーキングの一行は、四万川沿いの山道を上流へ向かう。歩くスピードは速くないが、ポールを使い全身運動となることで、体が熱くなってくる。このあたりは5月には藤がきれいに咲く場所。麻子さんも、この仕事を始めるようになってから、参加者に教える必要もあり、野山の花を好きになった。桜、ロウバイ、福寿草。野反湖を歩く時は、黄色いキスゲや紫のヤナギランの美しさに目を留める。奥四万湖も絶好のノルディックコースで、水流により川底の岩に穴が開いた甌穴や、歴史ある日向見薬師堂など、四万一帯は総じて見どころが多く、多様なコースを作ることができる。
赤いアーチ型の欄干を持つ竹井橋にやってきた。まだ葉を持たぬ川岸の木々たちが、深く青い川面に反射している。先の畑にあった、幹がにゅーっと縦に伸びた木を前に「これは何でしょう?」とクイズ。その正解は、この辺りでは「たろっぺ」と呼ばれるタラの芽で、天ぷらにするととても美味しい。その後は方言の話で盛り上がる。

健康増進センターでの仕事がなくなった時、東吾妻町で子どもを対象とした運動教室「A-FIT」を開いていた横尾貴之さんに声をかけられ、協力しないかという誘いを受けた。その頃には麻子さんは、中之条町が行っていた「ごほうび湯治」という企画で四万でノルディックウォーキングの講師も務めていた。中之条町は楽しそうだ、という理由からこの町へ引っ越しをした。そしてその後、横尾さんと準備を進めたスポーツジム「ABC Labo」を中之条町駅南の元カーディーラー跡に開業した。
「ABC Labo」では、子どもの運動教室のほか、大人を対象としたパーソナルトレーニングやボクササイズ、ボルダリングも教えている。楽しくないと子どもは成長しない、が麻子さんの持論。ここでの仕事を今後のメインにしていきたいと考えている。

登山も趣味だと麻子さんは言う。その一番の楽しみはご飯なのだそうだ。景色の良い山頂で達成感も感じながら、コーヒーを淹れることはもちろん、パスタも茹でるという。大切なのは、マイペースに楽しく生きることなのだろう。