こうじから生み出される手作りの食品
日本食の柱のひとつである発酵食品に欠かせない存在、「こうじ」。名前を聞いたことはあっても、その正体を知っている人はあまりいないのではないでしょうか。味噌、醤油、酒、漬物、酢・・・、こうじ菌が生み出す身近な食品はたくさんあるのに、いままでこうじそのものに意識が注がれることはありませんでした。それが、塩こうじ、甘酒ブームと、最近ようやく日の目を見つつあります。
そのこうじを専門にあつかうお店が中之条町にあります。こうじや德茂醸造舗。国産で良質の材料と、手作りの丁寧なもの作りにこだわっています。
それでは、謎多きこうじ専門店の中へ。
知れば知るほど深まる、こうじの世界
店内に入ってまず目につくのは味噌。こうじが生み出す食品の中でも、私たちに一番身近でなじみ深い調味料です。「ずっと続けてきたこうじをさらに多くの人に広めたいという思いから、先代がお味噌をつくりはじめました」と話すのは、四代目の玲さん。こうじや德茂醸造舗は120年弱もの歴史を持つ老舗です。そのなかでも味噌を始めて半世紀。味噌やこうじの販売のほかに、お客さん自身が材料をお店に持ち込むことで味噌を代わりに作ってくれるサービスも行っています。
味噌の材料は、大豆と塩と、こうじ。たったこれだけです。それゆえ「素材は大事にしたい」と伸子さんは言います。「自家製味噌を作るためにこうじを買いに来るという方が多く、こうじによる微妙な味の違いに敏感。そういう方に気に入ってもらえて」とうれしそうに話します。他県から数時間かけて店に来る人もいるのだとか。こうじにはそれぞれ個性があるようなのです。
米こうじはお米に白いカビが生えたような姿です。蒸したお米にこうじ菌をつけ、専用の室(ムロ)で温度と湿度を保ちながら繁殖させてつくります。「麹」とも「糀」とも書きますが、後者はそのようすがまるでお米に花が咲いたように見えることから生まれた和製漢字。「ほんとうに白い花がふわぁっと咲いたように見えるんです」と、伸子さんが話してくれました。でもそれは、冷めるとすぐにしぼんでしまう繊細な花です。酒にしても、醤油にしても。米、大豆、麦を、大変貌させるこうじの仕業。極小の生物たちが暗躍する、目で見ることのできない世界の裏側 ——、掴めそうで掴めないこうじの謎は、知れば知るほど深まります。
四代目、こうじや德茂醸造舗
こうじや德茂醸造舗は伸子さんの実家。三姉妹の三女として生まれました。姉2人は結婚して独立、両親だけになったことを心配して伸子さんは家に残りました。そうして「とりあえず両親の仕事を手伝い始めた」、でも「こどものときは両親はこうじを仕込む作業を見せてはくれなかったし、私も興味を持ちませんでしたね」と。こうじはとてもデリケート。わずかな環境の変化にも細心の注意が必要です。仕込み中はつねに目が離せず、夜中でも3時間ごとに起きて・・・、まるで新生児の世話をするように夜通しの気の抜けない作業です。それでも父である先代の姿を通して、この仕事に意義を見出した伸子さん。その思いに共感した玲さんは、四代目として二人で店を継ぎました。これもちいさな黒幕・こうじがつないだ縁でしょうか。
印象に残ったのは「手前みそには勝てない」という玲さんの言葉。「うちがいくら美味しいお味噌を作っても自家製味噌に敵うものはない。それぞれの家庭で手間暇かけて作ったものが一番」と。
さて、みなさん。私も自分だけの手前みそを作ってみたい、なんて思い始めてきませんか?
こうじが生み出す未知の発酵ワールドへ、ようこそ。