体験工房無限大|水野 有人・正子(みずの ありと・まさこ)

  • 2024年2月4日
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中之条、四万温泉街におしゃれな陶芸工房がある。大きなガラス窓から素敵な陶器の作品がちらり。ところ狭しと並べられた、大小、色とりどり、さまざまな焼き物の数々。カップ、酒器、大皿、小皿、カトラリー、一輪挿し、置物、壺…。 壁いっぱいに広がる、カラフルなタイルの装飾。これも焼き物。作品の一つだ。
「焼き物ってなんでもできるんですよ」
工房の名前は『無限大』。まさに言葉通り。
部屋の中央には作業用のテーブルとイスがあり、それぞれの席にロクロ、エプロン。ヘラなどのさまざまな道具も用意されている。それらが入った容れ物も、焼き物。本当だ。〝なんでも〟。
『工房 無限大』は体験工房だ。訪れた人は、手びねりによる作陶と皿の絵付けの体験ができ、作品は焼き上げた後、自宅へと送ってもらえる。
温泉宿のリピーターが旅館に来るたびに作りに来てくれるのだとか。「旅館に泊まってここに作りに来るのが楽しみ」と、お客さんの声。すぐ近くを流れる四万川の涼しげなせせらぎを聴きながら粘土をこね、温泉でほてった心をリセットする。温泉旅の思い出を飾る、自分が作った世界に一つだけの作品。なんて、ちょっとステキだ。
講師をしている、水野有人さん、正子さん、夫婦ともに陶芸家。二人の作品ももちろん置いてある。有人さんの作品は、どっしりと重厚で、ザラザラと荒い土肌の残る様子は力強く、土のにおいと温もりを感じる。一方、正子さんの作品は、さりげなく置かれた大きな壺。80センチほどの高さだろうか。こんなサイズも、窯にさえ入ればできてしまうのだそう。素焼きのなめらかな表面に個性的な絵付け、カラフルな釉薬。壁のタイル装飾も正子さんによるもの。同じ土、同じ釜で焼いても出来るものは千差万別。土の奥深い可能性、おもしろい。
お二人の出身はそれぞれ別の場所。出会いのきっかけは、陶芸、さらに言うなら、窯、だそうだ。
有人さんは信楽焼を学んだ後、30歳で独立。その2年後、沢渡温泉の西にある有笠山の麓に『有笠陶房』を構えた。そこへ、その当時自分の作風に適う窯を探していた正子さんが、窯を見に訪れる。それが二人の出会い。まさに陶芸がつないだ縁だ。
二人は同じく町内の『ふれあいの丘陶芸館』というところでも体験工房を主宰していて、そこで有人さんは、毎日、朝から夕まで作品作りに没頭している。「なにを作ってるのか私にはよくわからないんだけど。良く作ってますよねぇ」正子さんは笑いつつ、「そばで見てると、どうなるの? とときどき心配になるけど、出来上がってみると面白い作品になっている。私にはそうはできない」そこには陶芸家としての有人さんへの尊敬が見える。陶芸教室はおもに正子さんが、有人さんは窯焚きと自分の作品制作、と、二人三脚が温かい。
数日後『ふれあいの丘陶芸館』に伺うと、その日も粘土に向かう有人さんの姿があった。四万とうってかわって静か。聞こえるのはロクロを回す音だけ。有人さんの手の中で、土の塊は生き物のようにスルスルと形を変えていった。器の形をもったそれは手際よく粘土から切り離され、一つ、二つ、と並べられていく。生まれたばかりのまだ柔らかい泥の肌はとても無防備だ。こんなにも、頼りない繊細なものが、真っ赤に燃える窯の中で強く硬く生まれ変わる。不思議だ。
ふと見ると、卓上にたくさん並べられた完成作品のひとつに見覚えが。四万『無限大』での陶芸体験で作ったものだ。白い釉薬をかぶってすっかり作品然としている姿に、思わず口元がほころぶ。
土があり、人の手が形づくり、火が仕上げる陶芸。ときに器、ときに楽しみや喜びとなって人の暮らしを支え、彩る。ときに、縁も結ぶ。自然と人とでリレーのようにつながれていく。無限に広がる。
町なかや四万のカフェなどでも、水野さんたちの作品が使われている。中之条に来てふらっと立ち寄った店で、もしかしたらあなたが手に取るかもしれないそのコーヒーカップも。そんな出会いも、また楽しい。