キャンプ場「NAPi」|広川 康朗、多恵子(ひろかわ やすひろ、たえこ)

  • 2019年3月20日
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“森”のキャンプ場

「この〝なにもない〟自然が最高に良いんです」

キャンプ場『NAPi』オーナーの広川康朗さんの言葉に、心が揺れました。「ずっと東京のゴミゴミしたところにいたから、ここの良さがわかるんだろうね」妻の多恵子さんが続けます。中之条で生まれ育った私が、この自然豊かな環境を心底恋しく思ったのは学生時代に町を離れたときだったけど、その感覚を久しぶりに掘り起こされた感じがしました。

自然の中での暮らしを満喫しています、という広川さん夫婦。二人は10年前に中之条へやって来ました。この場所に、キャンプ場を作るために。

「キャンプ場をつくり始めた当時は、東京でまだサラリーマンやってました。髭もなく、ネクタイが似合うような恰好をしていましたから」と笑う康朗さんは、いまでは黒々と顎髭をたくわえ、アメリカンな山男スタイルがすっかり〝サマ〟になっています。私たちの取材に多恵子さんは、「開拓時期を思い出しちゃうね」と感慨深そう。二人の背景には緑がとても良く似合います。

サイト数4つのちいさなキャンプ場。いま流行りのリゾート的、アトラクション的な仕掛けのないシンプルな施設だけれど、それでも週末はすぐに予約でいっぱいになってしまうそう。「ここまで木が生えているキャンプ場も珍しいんじゃないかな」と見渡せば、キャンプサイトは木と木とスキマ、森の中に点在するように配置され、あたりにこだまするたくさんの野鳥の声が耳に優しい。まさに「森を楽しむ」「山を満喫できる」場所です。

森を楽しむキャンプ場NAPi

たった二人で始めたキャンプ場作り

ここは「自分たちが行きたいと思う理想のキャンプ場」なのだとか。自分がキャンパーだったときの、“嫌だったこと”を一つずつ取り除きました。純粋にキャンプを楽しめることと、自然の景観にこだわりました。

広川さんたちは出身も東京。どうして自分たちでキャンプ場をやろうと思ったのかといえば、よく利用していたキャンプ場がある日閉鎖してしまったから。「じゃあ、自分たちでつくろう!」という発想はかなり飛躍しすぎな気もするけど…。「はじめはこんなに大変だと思ってなくて。まさか完成まで10年もかかるとは」なんて笑う二人。けれど完成までの軌跡は、そんな笑いも吹き飛びます。いまでこそきちんと整備されたこの場所は、なんの変哲もないただの森だったそうで。木を伐り、道をつくり、炊事棟も管理棟もすべて自分たちの手でつくりました。「設計や大工仕事など未経験だったから一から勉強」といいつつ、柱も梁もピシッと組まれています。苦心の水洗トイレは自信作。

井戸掘りの回想は、聞けばなかなかに壮絶です。地下水が増える夏場に掘ると、冬には枯れてしまう可能性がある井戸。「真冬に穴の中に入って、泥だらけになりながらシャベルで掘っては泥をくみ上げる、を延々と2,3か月くらい続けました。そのときはまだ東京で会社員だったから、毎週末ごとに来て作業して、平日にはクタクタになりながら仕事してね」「大みそかに水が出たんだよね、それで元旦からまた穴に入って…」「いまから思うとよくあんなことができたなと思うけど、その時は楽しくてしょうがなかった。夢中になっちゃって」もう脱帽するほかありません。

遂に完成!

おもしろいのは、二人で作業していると、通りがかりの人たちが「なにやってるの?」と声をかけるのだそう。「そんな風に、いろいろな人が少しずつ道具やら知恵を貸してくれたんですよ。それが有り難かったですね」。二人の想いと行動は外側へと広がり、不思議と縁を引き寄せ、10年をかけて二人の“夢”は完成しました。

自分たちの願望を実現するために始めたキャンプ場作りでしたが、お客さんとの触れ合う喜びを発見したといいます。
「楽しかった、また来たいと言われることが、涙が出るほど嬉しい。この気持ちを味わえただけでも、やって良かったと本当に思います」

2005年にここに来た時から名前だけは決めてて、という『NAPi』という名前の由来は、
「笑われるんですけど、nap(うたた寝をする)から。“ずっとうたた寝しててね、ゆっくりしてね”という意味です」
本当にうたた寝がぴったりなホッとする自然。二人が掘りあてたのは、まちがいなく井戸だけじゃなかったのです。

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