こんこんぞうり|滝沢 しづ江(たきざわ しづえ)

  • 2024年1月8日
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靴。
みなさんは「靴」ときくと何を連想しますか?
ファッション。おしゃれ。礼儀や身だしなみ。
でも、それよりもなによりも。履き物とは、足を保護・補助するという大切な役割が本来あるはず…。
なぜ、このような話をするかと言えば、この「こんこんぞうり」を履いた瞬間に、まさに履き物の原点を思い出したからなのです!
地面や障害物、ときには凍てついた寒さから足を守り、文字通り、足元から生活を支える、昔ながらの手作りの履き物、「こんこんぞうり」をご紹介します。
こんこんぞうりは、主に根広、京塚、世立という3地域で作られています。古くからの材料は、「スゲ」という草。スゲを綯ってできたスゲ縄を使います。
集落は山間の斜面にあり、水田ができず稲ワラはとても希少でした。ひとびとはワラの代用品として、硬いスゲを温泉に浸し足で踏んで柔らかく加工する、「ねどふみ」という独特の方法を編み出し、スゲを使ってさまざまな生活用品を作ってきました。
「ねどふみ」は大変手間のかかる作業です。現在では、スゲで作るのはごく一部の地域を残すのみとなり、ワラなどのその他の材料も使い工夫して作っています。
こんこんぞうりのスゲ縄には、いろいろな色の布が巻かれていて、とってもカラフル。作り手の個性が光ります。足の指先が冷えないようにとスリッパのような形に作ってあり、室内用として使います。
こんこんぞうりをはじめとした、スゲ細工は昔から女衆(おんなしょ)の仕事。コタツで、おいしい漬物や煮つけ、温かいお茶を囲み、推定60歳以上の女子会!に混ぜてもらいながら、いろいろなお話を伺いました。
この地域は山深く、冬には積雪も多く、冬は寒さが大変厳しい土地です。靴も、布さえも乏しかった昔。もちろん靴下などもありません。雪に覆われた地面を歩くのも、危険な山仕事も、学校へ行くときも、寒い真冬の家の中でも。どこへ行くとき、どんなときにもスゲの履き物は当時の人たちの足を守り、温めてきました。現代ならば靴は靴屋に行けばあふれるほどいろいろな種類があり、わたしたちの消費欲を満たしてくれるには十分すぎるほどですが、当時の履き物はそういうものではなく、生きて暮らしていくのに無くてはならないものだったのです。
こんこんぞうりはワラジと同じ技術で作られています。子どものころから、誰に教えられるでもなく大人が作っているのを見よう見まねで作れるようになったのだ、と滝沢しづ江さんが話してくれました。こうやって、だれでも、生活に欠かせない必需品であるワラジを作ることができました。「生きるために(ワラジを)一生懸命作った」という滝沢さんの言葉が、当時の暮らしの厳しさを如実に物語ります。
そのころに使われていた、さまざまなタイプのワラジを見せてくれました。まずはノーマルなもの。一般的なぞうりの形に近いですが、かかと部分は丸みに合わせてフィットするように作られています。鼻緒の他にかかとから紐が通してあり、足首にしばりつけることでしっかり固定できます。子ども用の小さなものもありました。こどもの柔らかい足裏をスゲのチクチクから守る為でしょうか、かわいい赤い布が巻かれたスゲで作ってあります。びっくりしたのは、馬蹄の代わりの馬用のワラジ。聞けば、馬蹄は鉄で作られているため、わざわざ山を降りなければ手に入らない大変貴重なものだったそうです。けれど、馬蹄をつけなければ馬の爪が傷ついて痛がってしまいます。日々の仕事には、馬は欠かせない重要な労働力であり、仕事のパートナー。「今でいえば軽トラックのようなもの。」なるほど、わかりやすい例え! ワラジを履かせてあげれば爪が守られ、馬は働くことができます。馬を気遣う優しい思いやりとアイデア、知恵を見た!という気がしました。
その中での一番のお気に入りは、「カサ」という、冬の雪山での作業のために作られたワラジ。先に紹介したノーマルなものの外側を、すっぽりとスゲが覆っています。われわれが普段履いている靴の形に近く、履くと足全体が隠れます。見た目のインパクトもすごい。わたしはこれに足を入れた瞬間に、「はっ」となったのでした。足が喜んでいるのがわかる! さっきまで靴下一枚ですら微妙に蒸れていたのに、なんて爽やかで温かい。スゲで編まれたボコボコとした感触が足裏に心地良い。自然の物の素材の良さを改めて実感しました。合皮や化学繊維で作られた大量生産品ではない、ひとつひとつ手作りの、本当の「本物」です。スゲってすごい!

さきほどの「生きるためにワラジを作った」という話。滝沢さんの幼少のころの、物のない時代、また、斜面ゆえに田畑にできる土地が少ないという恵まれない環境での暮らしは、豊かとはいえず、辛く厳しい話もたくさんありました。「今とは違って想像もつかない…」「生きていくのに寒くて寒くて…」
それが、昔は「生きるために作った」ものを、いまは「遊びで作っている」と。かつて貴重でなかなか手に入らなかった布をたくさん使って。それぞれの作り手の創作の楽しさが、色とりどりのこんこんぞうりにに表れています。見ているだけでわくわくウキウキします。「今年の冬は何しようかな?」ふっと出た言葉に女子達の話題は尽きません。
ちなみに、こんこんぞうりの「こんこん」とは、足先の丸みを作る最後の仕上げで、木の型に合わせて整えるときに、小さなかわいい木づちで打ち付ける音からきているそうです。
あみあみこんこん、、、
あみあみこんこん。

生きる人々の人生を丸ごと包むように、守り、温めていたスゲの履き物。それを作る、女衆のみなさんの柔らかい笑顔。あなたの足もとにもこの爽やかで優しい温もりを、ぜひ!