中之条町内の、とある雑貨店で。私の目は木のボタンに釘付けになりました。木特有の美しい光沢、深みのある茶色。形はいわゆるボタンらしい丸型だけでなく、四角だったり長方形だったり、竹の細い枝そのままだったり。木目の出方や色がそれぞれに異なって、一つ一つが個性的なボタンは、選ぶのにとても苦労したのでした。
そのボタンの作者こそ、伊参(いさま)地区の木工職人 冨澤晃さん。表情豊かな木工製品はすべて、冨澤さんひとりの手によって生み出されます。
冨澤さんの作業場は、山と丘陵との合間にそっと開かれたような平地に、田んぼを一望して建っていました。窓からは、大きな背中を丸めて熱心に作業する冨澤さんの姿がちらり。朝から暗くなるまで、毎日ここで作業をしています。
冨澤さんにかかれば、ただの木材がたちまち美しい鉱物のように生まれ変わります。つるつるぴかぴか、丹念に磨かれた色とりどりの木製の丸ビーズたちは、宝石箱の中を見ているよう。角度によって色が変わってみえる濃茶色のエンジュは、鉱物のタイガーアイに似ている! ちっちゃな木星みたいなマーブル模様のヒノキ(枝)はメノウ。イチイの優雅な木目色、黒檀の深い深い黒。すべて、木本来の色のまま。同じ木でも、根か幹か枝か、芯の部分か表皮近くか、部分によって色がぜんぜん違うと言います。木の種類は主に、クワ、ケヤキ、スギ、イチイ・・・ など7,8種類。「地元の木で作る方が相性がいい」と、周辺の山や森から切ってきたものを使っています。艶出しに使うクルミも、「近所で採れるものをリスやカラスと競争して集めてくる」、と笑わせます。「みんな自分のまわりで」。冨澤さんによって、身の回りの木々のなかにひっそりと潜んでいた色や模様が浮かび上がる、それはもう魔法のようです。
木工製品のもつ独特の柔らかさとぬくもりも魅力のひとつ。違和感なく手によく馴染み、触っていると不思議と心が落ち着いて穏やかになります。ずーっと触れていたいと思うほど。この手触りを「追求したい」と冨澤さんは言います。このスベスベ加工には幾重もの工程が。形を作った後、荒目のヤスリで木肌を整え、徐々にヤスリの目を細かくしていきます。十分に滑らかになったら、仕上げにクルミの油をしみ込ませます。最後に、柔らかい布で磨いて完成。この手間、いっさい手抜きのない高い技術が、冨澤さんの作品をより一層輝かせます。木製たけとんぼのクオリティーたるや! 美しい曲線、ふわっと軽やかな持ち心地、表面のスベスベ感。たけとんぼとしての性能はもちろん折り紙付き。そのうえ、ただ飾っておくだけでもなんとも優美です。「磨くのが仕事の半分」「つるつるに仕上げるのが、楽しみで、苦痛」と笑います。
作業場のそこここから、自作の木工製品が次から次へと飛び出してきます。木琴などの楽器、積み木、コースターやカッティングボードなどの生活小物、杖からバットまで!
自らを「おもしろがり」と称する冨澤さん。花桃の種、リスがかじったクルミなど何かに使えそうと取ってある、ふつうは使わない木のフシや虫食いの跡、ヒビなども、あえてそのまま残して個性にしてしまう、その探求心と遊び心。冨澤さんの頭の中はまるでおもちゃ箱。ワクワクと好奇心が溢れています。
加工に適さないと思って薪ストーブ用に切った木材の断面からおもしろい模様を発見することも。「今のところ飽きないから続いている」と言いますが、これだからきっとずっと飽きない・・・。どうやら冨澤さんは、木に魅入られ、木に見出されているのでしょう。
こんな調子で、楽しみながら夢中に手を動かす冨澤さんを、南向きの窓からさす優しい光が包み込んでいました。
木工職人|冨澤 晃(とみざわ あきら)
- 2024年1月24日
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