鶴太郎さんが中之条町にやってきた!
俳優、タレント、プロボクサー、ヨーギ、そして画家。多芸多才で幅広い分野で活躍する片岡鶴太郎さん。誰もが知るその鶴太郎さんが、私たちの中之条町に絵の制作のためにいらっしゃる! と聞き、ぜひその制作風景と共に、鶴太郎さんの目に映る中之条町の印象をお聞きしたいと、滞在先の旅館にお邪魔しました。
中之条町の六合という地区にある尻焼温泉。重なり合う山々の厚い幕のその奥深くに、覆い隠されるようにひっそりと存在する小さな温泉地です。「尻焼」の名の通り、温泉は谷間に流れる長笹沢川の川底からこんこんと湧き出していて、その流れをせき止めてつくられたダイナミックで野性味あふれる大露天風呂は、温泉と豊かな自然を同時に堪能できる名所。数日前に降ったばかりの新雪は、晴れわたった青空を反射して目に飛び込んできます。そこに立ち昇る湯気。川のせせらぎだけが聞こえるこの場所は、日常の忙しさとはすっかり切り離された別世界です。
鶴太郎さんが滞在しているのは、2017年の春に改装オープンしたばかりの星ヶ岡山荘という旅館です。夜には川に面した露天風呂から、満点の星空を仰ぎ見ることができるのだそう。
身近なモチーフから作品が生まれる
私たちが伺ったとき、鶴太郎さんは制作の真っ最中でした。アトリエに入り挨拶をすると、幅2メートルはあろうかという大きな金屏風の作品を前に座った鶴太郎さんは、テレビで見るまんまの笑顔。こちらの緊張もフッとほどけます。床一面に広げられたたくさんの画材。部屋のそこここには完成した作品、真っ白なキャンバス。丸められた紙からは線画がちらりと覗き、ふと、手に取って広げてみたい衝動に駆られます。
鶴太郎さんはパレットから指で絵具をとり、何の躊躇もなく画面に載せていきます。その動きに澱みはありません。金一色の背景につぎつぎとイチゴやナスが現れていきます。指で表現される優しいグラデーションと味わいのある筆致。間もなく完成した画面の中には、描かれた色彩豊かな野菜や果物たちが思い思いにポーズをとって、気持ちよさそうに並んでいました。この野菜たちは朝に旅館へ届けられたもの。身の回りにあるいろいろなものに画題を見出し、一気に描き上げるのだそうです。滞在3日目にして5つの作品を完成させました。
「良いペースですね」丁寧で穏やかな声で語ります。「毎年、年内の仕事をやり終えてからは本当に絵のことしか考えていません。この近くで採れた野菜や旅館が仕入れた食材など、描くモチーフにも事欠かない。昼間には制作に没頭して、夕方になれば温泉に入って寝て、朝1時(深夜の1時!)からヨーガにじっくり時間をかけ、朝食をいただいく…という毎日。その繰り返しです」
鶴太郎さんと尻焼温泉
「何もないことが贅沢。時空がここだけ止まっている感じ」と、詩的な表現で尻焼温泉を表してくださいました。「とにかく本当に山のなかの温泉でね、野趣だなと思いましたね。毎朝部屋の戸を開けると川が流れていて、いい風情の雪景色。とても静かで制作に没頭できる環境は私にとって最適な環境です」とうれしいお言葉。尻焼温泉の良質で優しい湯と豊かな自然のなかで、鶴太郎さんはさらにどんな作品を生み出してくれるのでしょうか…。