六合納豆|六合の幸工房 山口 一元(やまぐち かずもと)

  • 2024年1月8日
  • 107view

ほっかほかの白いご飯一杯と、納豆。お手軽な日本食の定番。強烈なかおりと共にほおばれば、芳醇な大豆の味。
大豆を愛してやまない日本人。納豆好きのあなた、納豆ニガテなあなたも、六合納豆をぜひ食べてみてほしい。
『六合産 大粒大豆100パーセント』。大粒の大豆は、納豆のみならず、大豆の柔らかい甘みやコクを存分に堪能できる。納豆に思い入れのない筆者でも、初めて六合納豆を食べたときには、んんん!! となった。「大豆の風味そのままに、見事に納豆化に成功!」という大げさな文句が脳内に流れる。枝豆として食べても甘みが強くおいしいと評判の豆で作った六合納豆は、大豆のおいしさに気づかせてくれる。
味噌、醤油、豆腐、そして、納豆。大豆は、お米とともに古くから日本の食を支えてきた。
日本人の暮らしに寄り添ってきた大豆と、大豆を一生懸命作り続けてきた、現在のわたしたちにつながるご先祖様たちに想いをはせるお話。
その大豆が作られているのは田代原高原という、標高1000メートルの高地にある、山口一元さんの農園だ。
農園の場所は、山奥深い。つづら折りの山道、あたりは鬱蒼とした森を、ずんずんと車は進んでいくと、突如、集落が現れた。下界からは隔絶されたような長閑な佇まい。牛舎の中には牛がずらり。山から切り出された畑と畑の合間には木立がところどころに点在し、自然と人のせめぎ合いを見るよう。なだらかに上下する大地は、この場所が、はじめは一面の何の変哲もないただの森だったことを思い出させ、雄大な自然のただなかで生きる人間の痕跡を感じる。360度を山と森に囲まれた広大な農地は、この場所だけで暮らしが完結しそう。人間の最もシンプルでありのままの生き方がそこにあった。
この場所に山口さん一族が定住し始めたのは約100年前、祖父の代から。近隣に居を構えていたが、平らな土地が少なく、農業を生業としてやっていくだけの農地が確保できなかったため、思い切って森だった場所を切り拓き、開墾する決断をした。
山口さんから語られる祖父や昔の話はとても興味深い。
― 主食であったアワやヒエなどの種は、猟師もしていた祖父が、冬山に獣を追ってやってきた長野や新潟のマタギから伝えられたもの。
― 山口さんが中学生の時、当時はどの家でも貧しくてなかなか買えなかった牛を使って仕事をしたいと、祖父に怒られる覚悟で頼んだところ、何も言わず、夏に一生懸命蓄えたお金で秋に子牛を買ってくれた。そのころ、「子どもは七分」(大人の7割の稼ぎしかできない)だが、「牛を使えば三人前」と言われていた。山口さんは毎日牛の世話をし、中学卒業後は牛を使って仕事をするようになった。新たな農地の開拓と移住、中学生の山口さんに子牛を買い与えた、「おじいさんの大胆さ、懐の深さには驚かされる」と。
― 車などない時代。物の運搬は、遠方であっても、馬、人間の背、人力で運んだ。「しょっこし」という、荷を背負って運ぶ仕事の人もいた。
― (現代のなにもかも初めから用意されているかのような時代に対し)物がなく、貧しい。身体を動かして働かなければなにも手に入らない時代。親の言いなりでなく、楯突いてでも自分の道を強引に歩んでいくようでなければ … 等々。
今の、温室育ち草食系人類のわれわれとは、まるきり別生物のような骨太な人間像に圧倒され引き込まれてしまった。
さて、六合納豆。とてもシンプルなパッケージ。特に宣伝に力はいれておらず、「食べて判断してもらえたら」と山口さん。
案内してもらった工場は、もっと大きな建物を想像していたのに、ここが…と思うほどのちいさな規模。作業する人は基本2人、多くても4人。本当の手作り。見学させてもらったとき、ちょうどできあがったと、温蔵庫から取り出した、できたての納豆を見せてもらった。ほかほかの納豆、いつもの大粒。ふしぎと心地良いにおい。
山口さんの納豆は、匂いがきつすぎず、納豆が苦手な人でも美味しく食べられたという評判もあるそうだ。納豆の本場の水戸に住む人にも、「水戸でもこんなにおいしい納豆はない!」 と言わしめたほど。
大きな大豆畑もみせてもらった。畑の周りをぐるっと張り巡らせた動物よけの電気柵に、獣との闘いを垣間見る。
厳冬、霜、獣 ― 過酷な農作業、肉体の疲労。
長い年月、厳しい野性の自然と対峙しながら、ひとびとは懸命に自らの生命と家族を守り、命をつないできた。それはこうした日常のたゆまぬ労働から人の手で作られた作物に支えられてきたのだ。そして、いつも傍らに、共に歩んできた大豆。
帰り道、新たに拓かれようとする森をみた。「開拓者」という言葉が浮かぶ。にんげんは、手強い。わたしたちの生活する街も都市も、かつては森だった。わたしたちはみな、開拓者の血を受け継いでいる…。
厳しい環境でも逞しく、真摯にひたむきに生きてきた人間、それさえも飲み込む強い自然、そこからもたらされる恵み、作物。そんな自然と人間の営みを思い出しつつ、やさし やわらかい 六合納豆を味わってみてほしい。