入山メンパ|山本 幹雄(やまもと みきお)

  • 2024年1月25日
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日本人が愛してやまない、白いごはん。ほっかほかの炊き立ては最高! だけど、お弁当にすると食べるとき、な~んかおいしくない、って思ったことありますよね。
入山メンパは、美味しいお弁当ごはんを求めるあなたにこそ、ぜひ使ってほしい逸品です。
メンパとは、薄く削った木の板を曲げて作られる、器と蓋からなる対の容れ物。昔から一般的に弁当箱として使われてきました。最大の長所は、ごはんの美味しさ。材料である木がごはんから出る湯気を吸い取るのでベトつかず、夏場でも傷みにくく長持ちします。そして木の香りがごはんの格をさらに一段引き上げてくれます。天然の素材である木の柔らかな風合いも魅力。 お弁当包みを開いたらメンパがでてくる、なんて。素敵ではないですか?
現在でもこの入山メンパの技術を継承している職人が、山本幹雄さんです。六合の世立(よだて)にある自宅横に工房をかまえ、ひとつひとつ手作りで丹念に作っています。薪ストーブのある温かな室内には、木を削る音、たたく音、こすれる音、道具の音だけが響く穏やかで静かな時間が流れていました。
山本さんはとても落ち着いた声で話します。
「こどもの頃からメンパを使っているが、やっぱりメンパはいいですよ。」
メンパはとても長持ち、10年先でも使えるといいます。そして使い込めば使い込むほど、白かった木肌が味わい深い茶色に代わり光沢が生まれる、そんな生の木を使った道具ならではの楽しみ方も。
世立は山間部に位置し、豊富な木の資源に囲まれています。材はすべて周辺の山から伐ってきたもの。入山メンパにつかわれるのは赤松ですが、その良さを聞くと、「弾力や柔軟性。それと、独特の良い香りと艶」と言います。木はしなやかで曲げても折れません。メンパはその特性をいかして作られます。曲げわっぱ、曲物などとも呼ばれる所以です。適度な厚さに削った赤松の薄板を熱湯で煮込んで柔らかくし、小判型の輪っか状に曲げて固定。そのまま冷まして乾燥させれば、元に戻らず形が出来ます。輪のつなぎ目は、山桜の木の表皮を幅1センチ弱の帯状にしたもので縫いとめていきます。山桜も六合の山から。表皮は薄くても非常に丈夫で、細かな細工にも耐えます。小刀で表皮の余分な部分をしごき落としていくことで、どんどん艶が出てきます。白木色の木肌に鮮やかな深い赤茶色の山桜の縫い目、このコントラストが本当に綺麗でオシャレ。最後に底板をはめ込んで完成です。
山本さんの以前の仕事は、隣町である草津温泉のホテルの支配人でした。長男だった山本さんが旅館の番頭になると言ったとき、家族も近所の人もみな反対したと言います。そんななか、「親父さんだけが『この先ここで生きていくには(観光地である)草津を相手にしなくては・・・』と許してくれた」そう。その気持ちに応えるためにも山本さんは懸命に働き、支配人にまで登り詰め26年勤め上げました。
メンパ作りは定年後に始めたもの。メンパ職人になろうと思ったきっかけを訊ねると、「県のふるさと伝統工芸品に指定されている入山メンパだが、その当時メンパ職人はたった一人しかいなかった」というのです。それではあまりに勿体ない、と。それに加え、山本さんのお父さんがメンパ作りをしていたため道具はすべてそろっていました。お父さんが残してくれた道具を使って技を継げば、「旅館勤めを唯一許してくれた親父さんへの恩返しができるかもしれない」という父への想いも語ってくれました。
実際に作り始めてどうですか? という問いに、体の芯から深く息を吐くように「面白いですよ~」と一言。
「本当に面白い」。
支配人の仕事は一日中休みなく、寝るときすら落ち着いていられなかったと言います。そのころと正反対の現在。まる一日すべて自分の時間、自分の好きに使える時間が24時間あることの、心地よさ。
―― 春先から秋口まで山を歩いて良い木を見つけておき、紅葉が始まり木が水を吸わなくなる頃、木を伐る。その木から材を採り、自分の時間でメンパを作る・・・。
山本さんのゆるやかで澄んだ時間を凝縮した入山メンパはきっとあなたの暮らしにも、ゆったりと寄り添います。