六合の野反湖に向かう途中に、ぜひともオススメしたい蕎麦屋があります。「蕎麦処」の大きな看板ですぐにわかるでしょう。コシのある蕎麦と、歯ごたえ十分の大きな舞茸天ぷらが店の目玉。注文すると、厨房の奥から聞こえる天ぷらを揚げる軽快な音が食欲をそそります。出てきたおぼんの上には、大きな舞茸が黄色い薄衣をきれいに羽織って、蕎麦のわきにデンッと構え、自己主張しています。「待ってました!」
こちらはただの蕎麦屋さんではありません。店の主人、山本幸人さんは、じつは舞茸栽培が本業。いや、蕎麦屋、も本業でもあり。「あるときは『蕎麦』、あるときは『舞茸』、そしてまたあるときは、、」冗談を言って笑います。
『そば処 六合 野のや』は、舞茸屋さんが自分の舞茸を、六合の蕎麦といっしょに美味しく食べてもらうための店、なのです。
山本さんの舞茸の魅力は、栽培者だからこその、鮮度。「採れたてを新鮮なうちに提供しています。だから香りがぜんぜん違いますよ」。山から引いた水を使い、その湧水をたっぷり吸っているからなのか、とっても肉厚。一口ほおばれば、衣のサクッ。舞茸ブリッ。風味がほわっ。の三重奏。これはたまりません…。
この自慢の舞茸は、いわく「人間様より快適な環境」で大切に育てられています。湿度、温度に繊細な舞茸。24時間管理の手厚い世話によって、2か月半から3か月ほどかけてスクスクと大きく立派に成長します。そして、『そば処 六合 野のや』で提供され、近隣の草津温泉などへも出荷されていきます。舞茸栽培は、山本さんが30年ほど前に一から始めたものです。
「一度は地元を離れていたが、父親が亡くなり戻ってくることになった。だけど帰ってきてみれば、街に比べれば、ここは本当に山しかねぇなと、何も無ぇなと(笑)」
さらに戻ったばかりで仕事も無かった山本さんは、この〝山しかない〟環境でなにができるかと思案していました。そんなとき、舞茸栽培と巡り合います。始めたころは失敗の連続で、少ししか生育しなかったり、全部ダメになってしまったことも。今のように安定するまでに10年近くかかったといいます。そうした苦心と努力のすえに、良質な舞茸を、草津温泉の旅館や飲食店などへ安定して卸せるまでになりました。
さらに、六合で蕎麦を生産しているという話を聞いた山本さんは、舞茸と蕎麦を一緒に提供できるこの店を思いつきます。が、当時は蕎麦打ち経験もありませんでした。それでも「この地域に美味しい食材がいっぱいあるんですよ。そして、うちは舞茸をやっている。山で採れる山菜、きのこ、山の空気や水。そういうものを提供したい、六合に来たお客さんに喜んでもらいたい。ただその想いでやってきた」と真っすぐな想いで、この店で自ら蕎麦を打ち、調理をするまでになりました。
「〝郷土愛〟ですね、カッコよく言えばね」と笑います。
舞茸もそばもゼロからスタートでしたが、今では、舞茸工場で複数人の雇用を生むほど大きくなりました。これはまさに地産地消、先見の明ですね? と訊くと、「そんなことはないよ。せっかく山に来たら山のもの、この地区で採れたものをお客さんに味わってもらいたい。それに、六合の人はみんなが親戚みたいなものだから。みんなで肩寄せ合って、協力し合って、助けてもらっている。そういうところが地域の良さ。小さい村ですけどね」そこにはやっぱり、熱い故郷への想いが溢れています。
山本さんの郷土への愛と六合の大地の恵みから生まれた、絶品、舞茸蕎麦。六合の自然とともに、舌もお腹も、心まで満たしてくれること間違いありません。
そば処 六合 野のや|山本 幸人(やまもと ゆきひと)
- 2024年2月4日
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