まるで夫婦漫才をみているみたいだ。
尻焼温泉の近くにある豆腐店、㐂久豆腐を営む、山本ゆき子さん 昭夫さんご夫妻のやり取りを見て、そう思った。息がぴったり、話さなくてもわかる、みたいな。
ここで作られるお豆腐の原料は、厳選された大豆と、きれいな湧水だ。買うだけでなく、買ってその場で、店内で食べることができる。お醤油を垂らして、ざる豆腐をほおばるも良し。豆乳グラス一杯、飲み干すも良し。
昭夫さんが油揚げをつくる作業のさなかにお邪魔して、ジュージューというにぎやかな音をバックミュージックにゆき子さんにお話を訊いた。が、合間合間に入る昭夫さんのつっこみが絶妙である。
そして、昭夫さんの油揚げを作る、鮮やかな慣れた手つきと、ぷくぅ~っと膨らむ油揚げが出来上がる様にも、思わず、見入ってしまった。
油揚げは左右に区切られた直方体の形の鍋で揚げられる。まず、薄くスライスされた豆腐は左側の油で揚げ始める。やがて膨らみ始めると、手早く右側へ移され、素早い手つきで裏返し、裏返ししているうちに、風船のようにどんどん膨らんでいく。(この間に、左側には薄切りの豆腐が新たに投入される。)丸くなった油揚げは、バットへ。空いた右側に、左から膨らみ始めた油揚げが移され…。この一連の工程が、止まることなく休まず、無駄なく、流れるように進む。油から出された油揚げは、徐々にしぼみ始め、わたしたちが知っているお馴染みの姿になる。つぎつぎと並べられる、豆腐から見事に変身した油揚げ。あたりは香ばしい香りでいっぱい。たまらず食欲が刺激される。
㐂久豆腐は昭夫さんの実家。昭夫さんのお父さんお母さんの代から店を始めて60年ほど。地元のひとからも、旅行客、観光客からも愛されている。昭夫さんは、平日は外に勤めに出ているため、ゆき子さんがお店の切り盛りをし、週末は昭夫さんが活躍する。既に昭夫さんが就職していたタイミングで、お店を継ぐという話が持ち上がり、平日はゆき子さん、週末は昭夫さんという、現在の役割になった。
「休みなしで働いてるんだ」なんて、笑いながら冗談を言う昭夫さん。「ここに来りゃぁ(来れば)、早朝から楽しい楽しい豆腐作りができるぞ~!」
冬には凍み豆腐も作っている。凍み豆腐は、今でいう、「フリーズドライ」のお豆腐。真冬の自然の寒さを利用して作る。夕方に豆腐を作って切り、一晩、外に干す。翌朝、カチコチに凍った豆腐を回収。凍み豆腐はマイナス13度以下でないとできない。一番低い時期にはマイナス15度までになり、「3時間で凍るよ。」 作業は朝4時から! 12月の中旬から2月いっぱいまで、極寒での厳しい作業が続く。ゆき子さんが説明すると、昭夫さん「せっかく忘れているのに、辛さを思い出しちゃうじゃないか!」と笑う。
お話を訊いている最中にも、お客さんが買い求めに次々とやってくる。
ここに来ると、ついついなにかしらを買っていってしまう。とくに揚げたてのカリカリじゅわっ、な油揚げをすぐにいただくのが、オススメ。まさに揚げているときに立ち寄れたなら、運がいい!